函館ストーリー「2年先の未来予想図」
ぴいなつ先生♪クリオネ先生♪
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函館ストーリー「2年先の未来予想図」朗読しました♪
函館ストーリー「2年先の未来予想図」
ベイエリアにある《カリフォルニアベイビーのシスコライスが食べたい!》って冬果が言うので、僕らは店の前で待ち合わせをした。
僕は大学生で、わりと時間に余裕があるけれど、一つ下の冬果は受験勉強に追われていて、このところなかなか会えなかった。
僕は家庭教師のバイト代が入ったので、冬果にシスコライスをごちそうして元気づけようと思った。
「あ、冬果?いまどこ?」
「ごめん、あと5分くらいで着けると思うから、奏ちゃん中で待ってて~」
相変わらず、冬果は遅刻の常習犯だ。
きょうは、久しぶりのデート。
曜日は土曜日。
特に時間を気にしなくても何となくの昼下がり…
「奏ちゃん、またね!」
市電が十字街から大きく左へと向かった、宝来町の電停が近づいてくる…
頷きながらも、ここで別れるのは惜しい気がした。
僕が高校生最後の日の、デートの帰りだった…
「冬果」
イチかバチか彼女を呼び捨てにしてみた。
案の定、冬果は驚いたように目を瞠って僕を見上げた。
「迷惑だった?」
冬果は無言で首を大きく左右に振った。
「びっくりしただけ。でも嬉しい。だけどちょっと恥ずかしいな。急だったから…」
何やらいろいろと複雑みたいだが、とにかく迷惑ではないようで、僕は勇気を振り絞った甲斐があったというものだ。
自分だけが彼女を「冬果」と呼べる関係が嬉しくて、この時から僕は「冬果」と呼んでいる。
この春から僕は大学生になった。
冬果は、まだセーラー服が似合う女子高生だ。
《奏ちゃんと同じ大学に入るんだ!》って、必死に勉強に励んでいる。
僕だって、同じキャンパスで冬果と過ごせるなら最高だ。
ちょくちょく友達から合コンに誘われるけど、「彼女がいるからパス!」っていつも断っている。
意外とヤキモチ焼きだからね、冬果は。
「合コンとか行かないの?」なんてあっけらかんと聞いてくるけど、ホントは行かないでって顔に書いてある。
サークルで一緒の女の子から、なんとなく告白めいたことをされたときも、キッパリ言った。
「僕には彼女がいるから!」ってね。
独り言のように、ぶつぶつ頭の中でつぶやいていたら、いつの間にか冬果が到着していた。
「奏ちゃん?奏ちゃん?」と、僕の顔の前でブンブン手を振っている。
「ちょっと~?わたしが到着しても気づかないで、ナーニ考えてたの?」
「い、いや…。何でもないよ。さて、お嬢さま!ご注文はシスコライスでよろしいですね?」
「そうね、シスコライスなるものを、頼んでくださる」
「お飲み物は、どうなさいますか?お嬢さま」
「メロンソーダにするわ」
「かしこまりました、メロンソーダでございますね」
最近、執事とお嬢さまという設定の会話が、ふたりのブームだった。
シスコライスとは、ミックスベジタブルの入ったバターピラフにフランクフルトが2本とたっぷりのミートソースがかかった、カリベビの人気メニューだ。
僕が友達と食べに行ったことを話したら、冬果はことあるごとに《シスコライス、シスコライス》って言い続けていたのだ。
「やっと、これたねー」
「めっちゃ、楽しみ!!けっこうボリュームあるって聞いたから、朝からなにも食べないで来ちゃった~。お店もいい雰囲気だよねぇ」
「お酒が飲めるようになったら、夜に来てみたいよなぁ」
「いいね、いいね!じゃあ、わたしがハタチになったお祝いは、ここにしよっか?」
「まーだ、だいぶ先の話じゃん」
「いいの、いいの。それを目指してがんばるんだから」
とても冬果らしいと思った。
いつでも、そうやって先に楽しみをつくっておいて、そこに向かって全力で生きている。
そんな姿が可愛いと思うし、見ていて飽きない。
「なんかさぁ、冬果って、ずっとそのまんまなんだろうな」
「そうだよ!わたしはね、ずーっと、こんな感じでワクワクしながら生きていきたいんだ」
「80歳になっても、そのまんまなんだろう?」
「もちろん!かわいいおばあちゃんって最高じゃない?年齢のせいとかにしたくないよー。その年齢だから楽しめることをみつけていきたいって思うんだよねー」
「なるほどね~、とても高校生の意見とは思えないわ」
そう言って、ふたりで笑った。
冬果となら、この先、ずーっと笑っていられるんだろうなって、僕はいつも思う。
困難にぶつかっても、いつの間にか、それをプラスの方向に変えてしまうチカラが冬果にはあるのだ。
僕が大学受験でナーバスになっていた頃にも、いつもと変わらない雰囲気で笑わせてくれて、どれだけ癒やされたことか…。
だから、今度は僕が冬果を支える番なんだ。
嬉しそうにシスコライスを食べる冬果を見ていたら、そんな難しいことはどうでもいいかと思えてきた。
ただ、一緒にいられるという幸せを感じながら、メロンソーダを一口飲んだ。
あと2年後には、少しオトナになった2人がビールで乾杯して…
そのあと…。
想像して、ちょっと顔が赤くなった。
「どうしたの?」
「ん?いや、幸せそうだなと思ってさ」
「うん、最高にしあわせだよ!あ~おいしい、おいしい。元気出るわ~!」
オトナな時間は、もうちょっと、おあずけだ。
僕は、そっと2年先の未来予想図を胸にしまった。
店を出た僕らは、十字街までゆっくり歩き市電に乗った。
冬果は次の宝来町で下り、僕は終点の谷地頭だ。
僕らの恋は市電の車中から始まった…
車内はけっこう混んでいて、乗り合わせた乗客たちはどんな物語を抱えているのだろう?
それぞれの物語を乗せて、市電は十字街から走り出す。
「奏ちゃん、今日はありがとう!」
僕は、笑顔の冬果の手を力強く握った。
市電の線路はどこまでもは続かないが、僕らの線路は未来へと続いているのだ。
END
↓このお話は、「夏の終わりのサンタクロース」の続編です。
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