函館ストーリー「カモメが運んできたエピローグ」
ぴいなつ:作 クリオネ:監修
函館ストーリー「カモメが運んできたエピローグ」
朗読しました。
函館ストーリー「カモメが運んできたエピローグ」
今日は彼と、回転寿司『函太郎』に来た。
ここ、宇賀浦本店は、津軽海峡や立待岬が望める最高のロケーションで、海と山を眺めながら寿司をつまめるのは函館ではこの本店だけだ。
そして、私たちがご褒美として時々訪れるお気に入りのお店なのだ。
結婚式の打ち合わせが終わりクタクタだった私が、お願いして連れてきてもらった。
私たちは12月に結婚する。
今は、その準備の真っ最中。
式の段取りだけでなく、ブライダルエステにも行きたいし、引っ越しの準備もしなくちゃならない。
花嫁は、忙しいのだ。
そして…
心の動きも、めまぐるしい。
昔の写真を整理していたら、急に涙が止まらなくなったり…
そんな、ちょっぴり不安定な日々を過ごしていた。
「相変わらず、大人気だな!」
「ほんと~、今日も混んでるねぇ」
順番待ちの紙に、彼の苗字をカタカナで書いた。
《もうすぐ、自分もこの苗字になるのか…》
ちょっと照れくさいような、寂しいような複雑な気分だった。
ふと、少し離れたボックス席に目をやると、思いがけない人がそこにいた。
まさかの…元彼だった。
元彼の向かい側に座る女性の隣には3歳くらいの男の子がいた。
《結婚したとは風の噂で聞いてたけど…もう子供もいるんだ…》
私の心に、不思議なざわめきが起きた。
隣に座っている彼にわからないよう、一生懸命に平気なフリをしていた。
そして、元彼に私の存在を気づかれぬよう、かぶっていた帽子のつばを、ちょっとだけ下げた。
気にしないようにしても、ボックス席の声につい耳を傾けてしまう。
元彼が、息子の名前を呼んでいるのが聞こえた。
《ふーん、ハルトくんっていうんだ…どんな字を書くのかな?》
いちいち反応してしまう、自分が嫌だ。
別れたのは6年も前のことだし、もう、私には関係ないのに。
でも…
なんだか恥ずかしかった。
《ねぇ~お願い、私に気が付かないでほしい。見つめないでほしい。ショートヘアーになった私を…》
やがて、私たちはカウンター席に案内された。
よりによって、元彼から見えそうな位置だった。
悪いことをしているわけでもないのに、なんとなく身を縮めて食べてしまう。
大好物のサーモンの味さえ、よく覚えていない。
なぜだかわからないけど、勝手に涙が浮かんできた…。
様子がおかしい私に気づいた彼が、
「どうした?具合でも悪いの?」と顔をのぞいた。
「ん、いや…わさびが効いて…」
苦しまぎれに、わさびのせいにしてごまかすのが精一杯だった。
「あんまり食べ過ぎて、ドレスが入らなくなったら困るしね」
そう言って、どうにかその場をやり過ごした。
ボックス席から、食べ終えた元彼たちが立ち上がった。
その瞬間、私と元彼の目が合った。
お互い、言葉にならない何かを目で語り、スーッと視線を外した。
元彼の奥さんは、ロングヘアーでヒールの高い靴を履いた美人だった。
あの頃の私も、ロングヘアーでヒールの高い靴を履いていたのだ…
そして、昼下がりの6年前のタイムスリップは、何ごともなく終わった…
私の心のざわめきも、波の音のように消え去っていく。
完全に終わっていなかった私の昔の恋は、ツーンとした涙とともに想い出になった。
幸せだった過去も、つらかった別れも、私を成長させてくれる出来事だったのだ。
すべては、いまに繋がっているのだから…。
さりげなく元彼の後ろ姿を目で追うと、店の窓をかすめるように一羽のカモメが横切った。
《何の迷いもなく飛び立てるように、カモメたちが私と元彼をこのタイミングで引き合わせてくれたのね、きっと…》
私は、なんとも言えない清々しさを感じながら、彼の小皿に醤油をつぎ足していた。
ガリをつまみ、レーンを流れてきたサーモンのお皿をおもむろに手に取った。
「おっ!食欲復活?」彼が冷やかすので、「当たり前じゃない、私を誰だと?」と、満面の笑顔でこたえる私がいた。
《ありがとう…》
私は、夕焼け色に染まる海を渡るカモメたちに、心の中で静かにお礼を言った。
END
ご覧いただき、ありがとうございます。
1回目の録音では、ゆっくり でした。
2回目の録音では、。。。もう少し明るく朗読したほうがイイかな。とおもいました。
3回目の録音がコレです。
4回目は、もう少し可愛くしたいとおもいました。でも、3回目のほうがいいとおもいました。
拙い朗読ですが、お聴きいただき感謝デス。
ぴいなつ先生、クリオネ先生、 ありがとうございます。