函館ストーリー【指定席は、海の見える窓辺】


函館ストーリー【指定席は、海の見える窓辺】

 

 

朗読しました。

お楽しみくださいね。

 

クリオネ文筆堂

ぴいなつ作:函館ストーリー「指定席は、海の見える窓辺」-クリオネ文筆堂 (greensaster.blogspot.com)

 

函館ストーリー「指定席は、海の見える窓辺」

 

ぴいなつ:作

クリオネ:監修

わたしは函館の大学に入って、初めて一人暮らしを始めた。

四季折々に異なる表情を見せる函館の街…

空が、風が、光が、人が、建物が、函館という組曲をそれぞれ奏でる。

海から見上げる坂道、坂の上から見下ろす海、振り返るとそこには、わたしの大好きな

元町があった。

わたしは、すっかりこの函館の街に魅了され、そのまま就職をした。

そして、働きはじめて10年目の冬が終わろうとしている。

 

ときどき、仕事に煮詰まると訪れるカフェがある。

元町にあるそのお店の海が見える窓際が、わたしの指定席だった。

ただただ、ボーッと海を眺めていたら、モヤモヤした気持ちが浄化されていく…

そんな癒しの空間。

パスタランチが人気で、この店に来ると、わたしはいつも日常を忘れることができた。

 

本日のパスタランチは、2種類の辛さが異なるカールレイモン・ソーセージ添えの

ペペロンチーノ。

わたしは、パスタを口に運びながら、いつのまにか頭の中はファンタジーの世界へと

迷いこんでいく…。

あの海に、小瓶がぷかりぷかりと浮かんでいて、中には手紙が入っている。

これは外国語ね。一体、どこから辿り着いたの?

どうやらそれはフランス語みたい。

なんて書いてあるのかな?スマホで調べてみた。

[C’est la vie ]セ・ラ・ヴィー      

[それが、人生]って意味なのね…。

なんだかステキな言葉!

何年かかって、ここまで漂流してきたの?

わたしに見つけて欲しかったの?

どんな人が書いたんだろう?

もしかして…この人が、わたしの運命の人だったりして?

 

…気づけば、そんな物語を空想するクセがあって、それがわたしのリセットの時間にもなっていた。

そしてランチの後の、このカフェ自慢のガトーショコラと濃い目の珈琲が、最高のご褒美。

 

マスターは穏やかな佇まいで、いつもカウンターの向こうで丁寧にネルドリップで珈琲を淹れてくれる。

その横には、笑顔がステキな奥さまが接客をしていて、とても居心地がいい。

《こんな夫婦って、憧れちゃう…》

わたしにも、そんな運命の人がホントにいるのかな?

 

まわりはどんどん結婚しちゃって、独身の友達は数えるほどしかいない。

家庭を持った人たちとは、だんだん話も合わなくなってくるし…

このところ、ちょっと焦っていた。

いつか白馬の王子様が迎えに来てくれる!

とまでは夢見ていないにしても、どこかでそんな出逢いを待ち続けている、わたしがいた。

 

あーぁ、わたしの人生って、これからどうなっていくんだろ?

雑誌の占いには《今年は12年に一度の大幸運期》なんて書いてあったけど、そんな気配はまったくないしさ…。

 

《そろそろ、休憩時間も終わりか…》

お会計をしようと席を立ったとき、奥さまが声をかけてくれた。

「なにか、いいことでもあった?」

「エッ!?どうしてですか?」

「なんていうか、とってもハッピーなオーラが出ているように見えたから」

「エー?そういうの、わかるんですか?」

「うーん、なんとなくなんだけど、わたしにはちょっとそんなチカラがあるみたいなのよね」

「だとしたら、すっごく嬉しいなぁ~。やった~!なんか元気でちゃいました!」

「そう、その笑顔!いい波動って、人から人に伝わるの。だから、自分がいい波動を出していたら、自然とステキな人が集まってくるようになるのよ」

奥さまの言葉は、スーッとわたしの心に響いた。

まるで、函館の海の波音のように…。

 

《叶えたい未来は、自分で引き寄せる》

わたしは、会社のデスクに戻ると手帳にそう記した。

きっと、わたしの王子様は、こっちに向かって馬を走らせている!そう信じて。

 

 

END

 

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ご覧いただきありがとうございます。

 

※写真はフリー素材をお借りしました。