函館ストーリー「春爛漫、大人遠足」
こんにちは^^
今日の気温は、全国的に4月中旬のような暖かさだそうですょ。
待ち遠しい桜の季節🌸
朗読しました。
クリオネ文筆堂さまより
ぴいなつ作:函館ストーリー「春爛漫、おとな遠足」-クリオネ文筆堂 (greensaster.blogspot.com)
函館ストーリー「春爛漫、大人遠足」
ぴいなつ:作
クリオネ:監修
今年の冬は厳しかった。
コロナ禍の中、春を待ちわびる思いは、例年にも増してひとしおで…
だから、全国各地から届く「桜が咲いた」というニュースにやきもきしながらも函館に、桜前線がやってきた。
待ちに待ったスペシャルな春。
彼とわたしは、ふたりで《おとな遠足》をする約束をした。
行き先は、五稜郭公園。
星形に沿って植えられた1600本もの桜が見事に咲き競い、開花中は夜のライトアップが行われ、幻想的な夜桜も楽しめる。
五稜郭の桜は淡いピンク色をしており、やさしく上品な雰囲気を漂わせていた。
春のザワザワしがちな心を、ふんわり包むように和ませてくれるのだ。
わたしはこのところ、週末のおとな遠足の準備に心を弾ませていた。
仕事帰りに《和雑貨いろは》に寄って曲げわっぱのお弁当箱を2つ買った。
フンパツして色違いのお箸と、お弁当を包む春らしい手ぬぐいも揃えた。
「水筒には、温かいほうじ茶がいいかな?お弁当のおかずは、何にしよう…」
なんて、お昼休みに手帳にメモしながら考えるのも楽しい時間だった。
そして、当日…
彼は、わたしがつくったお弁当を、ひとつひとつ味わいながら食べてくれた。
メインは豚の生姜焼き。キンピラや青のりとチーズを入れた玉子焼きも気に入ってくれたようで嬉しい。
そして、わたしが選んだお弁当箱たちをみて「センスいいなぁ」なんて褒めてくれ、思わずニヤニヤしてしまった。
なんていうか、女ゴコロがわかってる人だなぁと思う。
そのあとは、彼が用意してくれたスイーツの出番。
おとな遠足の約束をしたときに、彼が「スイーツは僕にまかせて!」と言ってくれ、わたしはワクワクしていた。
何がでてくるのかな?
「五稜郭公園の近くにある《函館おたふく堂》というお店の《豆乳函館しふぉん》だ」
「うわ〜、しっとりなめらかで、ほどよい甘さ。毎日食べたい」
「だろ?前に会社の人から差し入れにもらってさ、食べさせたいなって思ってたんだよ。ほら、豆乳とかヘルシーなの好きだろ?」
「そうなの〜嬉しい!」
「これもあるよ、《おからボーロ》」
「う~ん、コレもしっとりしてて、何個でも食べれるね」
そのあとは桜を眺めながら、のんびり2人で歩いたり、写真を撮ったり…
自然の中にいると、それだけでパワーをもらえる気がする。
こんな、ゆったりとした休日の過ごし方が好きだ。
わたしは、家に帰ってきて、手帳におとな遠足の日記を書いた。
彼が何かを食べたあと「おいしくいただきました」と、手を合わせて言うところが、好き。
市電を降りるとき「ありがとうございました」と運転手さんに言うところも、好き。
お箸の持ち方が美しいところも、好き。
自分のことを「僕」というのが、好き。
ちょっぴり鼻にかかった声が、好き。
腕時計を見るときの仕草が、好き。
頷きながら話を聞いてくれるところが、好き。
「好き」を並べていたら、ノート見開きいっぱいになった。
いつのまに、こんなに彼のことでいっぱいになっていたのだろう。
同棲していた元彼と別れて、もう恋なんてしないと思っていた、わたしが…。
出逢ってしまったのだ、こんなに「好き」を書き連ねられるほど、好きになれる人に。
桜の花びらが、お弁当を入れたトートバッグの中にひっそりとまぎれこんでいたから、記念に手帳に貼っておいた。
キッチンで2人分のお弁当箱を洗いながら、気づけば恋の歌を口ずさんでいた。
《わたしの心もサクラ色?》なーんて思って、ちょっと照れてしまう。
だけど、この気持ちを大切にしたいと思った。
最後のパズルのピースがカチッとはまったように、こんなにしっくりくる人には、もう出逢えないと思っている。
ベランダに出て、「う~ん」と背伸びをしながら深呼吸した。
まだ冷たい夜気をおもいきり吸い込むと、ちょぴり春の匂いがする。
「ずーっと、この先も、彼と一緒に桜がみられますように」
わたしは空を見上げて、お星さまに祈った。
END
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