創作昔話『甚四朗と女キツネ』朗読しました。


創作昔話『甚四朗と女キツネ』

 

 

 創作昔話 『甚四朗と女キツネ』

~お小夜キツネ・シリーズ~

 

クリオネ:作

ぴいなつ:監修

 

昔むかし、あるところに、キノコ採りの名人で甚四朗という、男の人がいたんだと…。

 

ある日の事、甚四朗はいつものようにキノコ採りに山へ入って行った。

したけどその日は、キノコもな~んも取れなくて、イライラしていた。

「ちくしょう!ぜんぜんダメだ~。アケビでもいいから、見つからねぇ~べが?」

甚四朗は、山道を歩きながらアケビを探したが、一つも見つからなかった。

「まいったな~、こんなに何も採れないって、初めてだ~」

 

甚四朗は、その場に立ち尽くしていた。

「このままだと、嫁さんに怒られるべな。家を出るとき、キノコをたくさん採って来るって出て来たからな~」

そう言うと甚四朗は、山の奥へと歩き出した。

獣道のような細い道を進んでいくと、ポッカリと口を開けている森の入り口を見つけた。

「ここは、どごだ?これが、ベゴ森と言われる場所か?」

ベゴ森とは、昔から山奥にある天狗が住むと言われる森で、誰もそこに近づく者はいなかった。

「これは、マズイ!天狗に捕まる前に、早く帰るべ~」

そう言うと甚四朗は、さっき来た山道を引き返した。

 

しばらく歩いていると、いつの間にか後ろから花柄の着物を着た若い女の子が、甚四朗の後ろを歩いていた。

甚四朗は、首を捻りながら思った。

「なんでだ?こんな山の中に、着物を着た若い女がいるはずがない。これは、キツネがタヌキに違いない。オラは騙されないぞ」
そう言うと甚四朗は、後ろを気にしながら突然、道の脇に座り込んだ。

ビックリしたのは、キツネだかタヌキだか分からない着物姿の女の子である。
甚四朗の前で立ち止まり、オロオロとしはじめた。

それを見ていた甚四朗は煙草を深く吸い、その若い女の子に向って、煙を何度も何度も吹きつけた。

たまらず若い女の子は、そそくさと甚四朗の前を通り過ぎようとした。

よく見ると、着物の後ろから金色の太い尻尾が見えている。

 

「そらっ!」と甚四朗は、その尻尾をむんずと掴んだ。 

じたばた暴れる尻尾の持ち主は、着物姿の女の子から、いつの間にか若いメス狐の姿になっていた。

「このキツネめっ、オラを騙そうたって100年早いんだ」

甚四朗は、この女キツネに「二度と人を騙さない事」と、厳しく言いつけ山に帰した。

やがて、甚四朗は村へ帰り、この若い女キツネの話をした。

集まった村の人たちは、若いキツネだったので上手く化けれなくて、尻尾が出ていたのだろうと言ったそうだ。

「これで、もうキツネに騙される事もなくなるな~」

と、村人たちは喜んだという。

 

 

しかしこの後、この若い女キツネが「お小夜キツネ」として、村中の男を騙すとは…

甚四朗も村人も、この時はまだ誰も分からなかったのである。

 

どんとはれ。

 

[完]